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Date: Sun, 3 Apr 2011 03:09:08 +0900
From: "Hiroshi Ichikawa \(DION\)" <hiroichi@f7.dion.ne.jp>
Subject: [scsj:00030] 3月27日「海のサイエンスカフェ」報告
To: <member@scicomsociety.jp>
Message-Id: <003001cbf161$1382ebe0$3a88c3a0$@dion.ne.jp>
In-Reply-To: <AANLkTin=bAZKgd3djTiNadTw0nnPu3MB=iyC2uXfMHTY@mail.gmail.com>
References: <AANLkTin=bAZKgd3djTiNadTw0nnPu3MB=iyC2uXfMHTY@mail.gmail.com>
X-Mail-Count: 00030

横山 様、みなさま

海洋学会教育問題研究会の市川です。

「近況報告を」という横山さんの呼びかけに応じて、
先に本MLでご案内し、3月27日に品川で開催した、
第7回海のサイエンスカフェ
「東北関東大震災にかかわる海洋の科学を考える」
について、以下に、ご報告します。

最終的に内容が確定し、ウェブサイトで告知したのが3月18日で
あったにもかかわらず、前日午後には、支援者(教育問題研究会
員、8名)を含めた参加予定者が定員の25名に達するという、こ
れまでにない大きな反響があり、結局、参加者総数は27名でした。

8名の教育問題研究会員の中でも、支援者として参加するのが初め
てという会員が3名いました。また、一般海洋学会員も2名加わり
ました。研究者側にも、一般の人と語り合いたいという欲求が強か
ったことを示していました。

一般参加者17名の中には、本MLをご覧になっての参加者2名の他、
ご夫婦と高校生の家族3人、小学校教諭、海洋調査会社員など、男
性が8名、女性が9名でした。

11時から、趣旨説明と参加者全員による今の関心事を含めた自己紹介
を行い、その後、私を含めた研究会会員3名が、
1)福島原発周辺海域モニタリング結果と海流状況の説明、
2)放射線科学第52巻 第3号(2009 年3 月15 日発行)掲載の
  特集/海洋環境放射能ワークショップ「沿岸−外洋域における
  放射性核種の挙動 観測からモデル構築へ」の解説、
3)平塚沖海洋観測塔における津波記録の紹介
を、質疑応答を交えて行いました。

11時50分から12時50分まで、各参加者の希望に沿って、福島原発事故
(8名)、海洋科学(7名)、地震・津波(6名)、科学と社会(6名)の小グル
ープに分かれて、学会員と一般参加者が対話を行い、その後、各グループ
の対話内容について全体への紹介後、13時過ぎに終了しました。

以上、取り急ぎ、ご報告します。
グループ別対話の内容などの詳細は、近日中に以下のウェブサイトに
掲載する予定です。
http://coast14.ees.hokudai.ac.jp/osj/science_cafe/20110327.htm

<震災後の科学コミュニケーションの実践に関連して>
今回、サイエンスカフェを開催した動機の一つに、地震、津波という
自然災害を防止できなかったことと原発事故発生を契機として、科学
への不信が高まっているのではないかという危惧がありました。

おそらく、このような危惧を抱かざるを得ない状況は、原発事故が完全
に終息するまで、また、地震予知・津波対策が定まるまで、長期間、続
くと思います。我が国の復興・発展には科学技術研究が必要ですが、そ
の前に、科学技術研究を進めることについての国民の支持と理解が必要
です。科学技術の粋を極めたはずの原発で重大な事故が発生したことに
対する対処を誤れば、国民の科学技術に対する支持を完全に失うことに
なります。私には、3月18日付け学術会議幹事会声明には、このような
危機感がないように感じます。

原発事故状況についてのテレビでの研究者での説明、解説や記者会見を
見ていても、状況についての国民の理解を得ることに成功しているとは
思えないことが多々あります。他方、以下のように困惑している心境を、
サイエンスカフェ直前(25日)に私に伝えてきた海洋学会員もいました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
なんか明後日、参加者が大勢来そうな気がして...
でもって来た方の期待?に答えられないのではないか...
海の放射線特集を読みましたが、あそこの生態系モデルが、なんか
イマイチ信用がおけないし...
生物濃縮についてはどういって答えればいいのか...
直ちに心配するレベルではない、なんて国の発表みたいなことは
言えないし...
かといって分かりませんでは学者として無責任だし...
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これに対し、私は、以下のように答えました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「専門家が明快な答が示す」という期待を持つのが、「幻想」であると
いうことを一般参加者に理解してもらいたいと、私は思っています。
「分かっていないこと」を「分かっている」かのように言う、あるいは、
単に「分かりません」というだけでは、無責任でしょうが、世の中には
分からないことが沢山あり、「どこまでは分かっている」が「何々が分
からない」と丁寧に説明するしかないと思います。

参加研究者は、一般参加者の期待とか、学者の責任とかに拘らないで、
理解の現状と残された課題についての個人的な考えを述べて良いと思い
ます。このことを通して「科学の営み」の意義や面白さが、一般参加者
にも伝わることを願っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

参加者の感想に、
「研究者の中にも、いろいろな考え方のあることを知って良かった」
という記述が複数あり、当方の想いが伝わったことを喜んでいます。

以上、ご参考まで。

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市川 洋
E-mail: hiroichi@f7.dion.ne.jp
HP URL: http://www.k4.dion.ne.jp/~hiroichi/
Blog URL: http://blogs.dion.ne.jp/hiroichiblg/
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> -----Original Message-----
> From: hiromi.yokoyama@gmail.com [mailto:hiromi.yokoyama@gmail.com] On Behalf
> Of YOKOYAMA M Hiromi
> Sent: Friday, April 01, 2011 9:49 AM
> To: member@scicomsociety.jp
> Cc: scicomsociety-adm@googlegroups.com
> Subject: [scsj:00025] 新年度のご挨拶(科学コミュニケーション研究会)
>
> 科学コミュニケーション研究会メンバーの皆さま,
>
> 東大の横山です.新年度になりましたね.いかがお過ごしでしょうか.
> 東北大の久利さまはじめ,被災地の皆さまはまだまだ,大変な状況であると拝察い
> たします.
>
> 先日,東北大の長神さんが投稿されたブログ「断絶を包み込めるのか」が話題にな
> りました.
> 反響が大きくてすぐに取り下げられたようですが,被災地に向けて何かをしたいと
> 思う焦りをもつ
> 被災地以外の人間(たとえば私)と,被災地の方々との間に大きな気持ちの断絶の
> あるというもので,
> 色々考えさせられました.
>
> 一部で,震災に対して”動いていない”科学コミュニケーターへの批判も出ていま
> す.
> そう言いたくなる気持ちもわかり,真摯に考えなければならないこともありますが,
> 私は的外れな批判
> だと感じています.おそらく皆さん,それぞれの場で,ご自身のできることを精一
> 杯されているのだと
> 思います.それが原発の説明をする等々の,直接的な活動のみに矮小化されて批判
> される必要は
> ないと思います.
>
> twitterで東大化学の竹沢さんも指摘されていましたが,貢献したいという気持ち
> はわかるけど,
> あせらないで,だけどなんといわれても私たちなりの科学コミュニケーションを続
> けていこうという
> メッセージはとてもしっくりきました.
>
> 今年度は科学コミュニケーションに関わるものとして,今できることと,今しなけ
> ればいけないことを
> よく考えて進んでいきたいと思っています.今現在は,科学コミュニケーションと
> いうと,原子炉や
> 震災についてわかりやすく説明することだけに集約されがちです.
> もちろんそうした活動をされている早稲田の田中さんのサイエンスメディアセンタ
> ーの活躍は
> 素晴らしいものがあると思っています.一方でたとえば私のように,普段は基礎科
> 学の楽しさや
> 重要性について中高生や大学生にコミュニケーションを行っているものや,こども
> たちに星空の
> 話をされる皆さんは,日本復興の道筋を立てるにあたって,その力を発揮していた
> だく場面が
> 山のようにあると期待しています.
>
> 私自身についていえば,私にとっての震災後の科学コミュニケーションの実践は,
> 原発や津波の説明をすることではなく,震災後の基礎科学を,停滞させずに推進し
> ていくための
> 道筋作りだと思っています.特に莫大な電力と予算を使う加速器科学等の大型科学
> の将来を
> 心配しています.色々策を練ってはいますが,組織の壁に阻まれてうまくいってい
> ないことも
> あります.あきらめずにがんばっていきたいと思っています.
>
> このMLはまだできたばかりで,どのような方々が入っているかわからず,発言が
> しにくいかも
> しれませんが,それぞれに近況をご報告していただければうれしく思います.
>
> 科学コミュニケーション研究会も4月の研究会は延期させていただきましたが(夏
> 前に開催したいと
> 考えています),今年度はますます活発に進めていきたいと思っています.
> 今年度もどうぞよろしくお願いいたします.
>
> --
> 横山 広美 YOKOYAMA M Hiromi 博士(理学)
> 東京大学大学院理学系研究科 広報・科学コミュニケーション 准教授
> 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学大学院理学系研究科
> TEL:03-5841-8856  携帯:090-4912-7041
>
> http://sc.sp.s.u-tokyo.ac.jp/yokoyama/